水泳での注意事項 ー耳鼻咽喉科の立場からー

近年は、水泳が全身運動として子供の健康増進に役立つとの考えから、盛んに推奨されるようになっています。各地にスイミングスクールが設立され、この傾向はますます顕著になっているようです。

実際、適切な運動量や強度であれば、体力増強の意味ばかりでなく、喘息やアレルギー性鼻炎などの病気の治療にも有効との報告もあります。一方、従来から言われているように、慢性副鼻腔炎(いわゆる、ちくのう症)や重症のアレルギー性鼻炎など、ある種の疾患では逆に病状を悪化させる可能性も否定できません。

 

では、なぜ水泳が問題となるのでしょうか。まず、他のスポーツに比べて運動強度が強いことです。このことは体力増進によい一方で、体力の消耗も大きいということを意味します。ですから、風邪などの急性疾患や発熱などで抵抗力が低下しているときは合併症をおこしやすく、控えなければなりません。

 

また、水泳では耳や鼻、口などに水が侵入します。健康な状態ではそれほど問題になることはありませんが、細菌感染を起こしているような時には、水が入ることで細菌を体内に広く拡散してしまいます。たとえば、強い副鼻腔炎がある時などは、耳管経由で中耳に細菌が侵入し、急性中耳炎の原因となります。

プールの水自体が不潔なときはもちろんよくありませんが、プールの水には殺菌の目的で塩素系薬剤が添加されており、それが眼や鼻、のどの粘膜の刺激となることがあります。特に学校のプールと違って、スクールなどの営業用プールでは塩素濃度が高めに設定されていることが多く、体に与える影響も大です。さらに冷水による温度刺激や、飛び込みや潜水時の圧刺激にも注意が必要です。

 

一般に中耳炎や鼻炎などは幼児が水泳を始めた最初の頃に頻発します。これは、水泳に心得のない子供が水に恐怖心があったり、プールの深みに足を取られて突然水中に沈み、驚いて、口や鼻から汚れた水が入るためにおこります。それゆえ、子供に水泳を教える場合、まず、水に対する恐怖心をなくすこと、そのために洗面器などで顔をつけ水になれること、ついで、顔をつける前に肺に吸い込んだ空気を鼻から出す練習、すなわち水泳時の呼吸のコツを覚えさせることが、とても重要です。