インフルエンザウイルス迅速診断キットについて

※留守寄稿「耳鼻咽喉科・頭頸部外科増刊号 耳鼻咽喉科検査マニュアル」より加筆改変

 

インフルエンザウイルスA型およびB型感染の診断補助として、1999年に迅速診断キットが市販されました。現在では30種類程度のキットが販売されており、臨床現場でのインフルエンザ診断法として広く用いられています。RSウイルスやアデノウイルスの検出も行えるキットもあり、とても便利なものです。

キットによって、測定法の違いがありますが、最近のキットは診断の正確性が著しく向上しています。しかし、迅速測定キットは,どうしても一定量以上のウイルスが必要であり、さらに、あくまでも目視判定で検出する簡易検査であるため、偽陰性(ウイルスがいるけど、いないと判定)と偽陽性(ウイルスがいないけど、いると判定)の発生を避けることができません。

26種類の迅速診断キットの検査精度を解析した2012年の報告1) では、平均の感度は62.3%、特異度は98.2%となっています。すなわち、陽性反応が出た場合の感染事実はほぼ間違いないのですが、陰性反応が出た場合、現実には4割程度の感染を見逃していることになるということです。ただし、これは米国での報告であり、他の報告や現場医師の実感からは、より高い感度が得られていると思われますが、比較報告をした論文がまだ少なく正確な評価は困難です。

検査の精度を向上させるには、検査実施の時期と検体採取の方法に留意する必要があります。38度以上の発熱をもって発症とすると、少なくとも発症から7時間を経過すると陽性率が高くなります。しかし、発症1時間でも陽性反応を得られるとの報告もあり、適切な検査時期の指針については一定の見解がないのが実情です。

検体は咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液を用いることができますが、キットによって対応できる検体が異なるので注意が必要です。検体による精度と簡便さを考慮して、鼻腔ぬぐい液が多く用いられています。

上記のように、現場では迅速診断キットの判定が陰性の場合でも、インフルエンザ感染を否定出来ないことに留意しています。最終的な判断はあくまでも医師の総合判断による点をご承知おきください。

 

1)Chartrand C et al.: Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis. Ann Intern Med. 3; 156(7): 500-11. 2012