乗り物酔いについて

乗り物酔いとは動揺病( motion sickness)ともよばれ、乗り物の動揺や振動に対する体の不適応現象です。2000年頃までに、乗用車やバスの台数が過去20年で10倍以上となり、動揺病も3倍に増加したといわれています。

体の平衡は内耳を中心として、小脳や大脳、眼などが協力しあって行われています。大昔、人間が自らの力で大地をもっぱら二本足で歩いていた頃には動揺病は起こりませんでした。文明の発達と共に、人間が他の家畜や機械を利用して速く移動しようとしてくると、急激な加速度の変化や連続する動揺や振動など、過剰な刺激が内耳に加わるようになってきました。これらの刺激が、その人が本来もっている生物としての適応の限界を越えると平衡機能が障害され、周囲や自分が動くような錯覚を引き起こし、自律神経症状(吐き気、嘔吐、なまつば、冷や汗、顔面蒼白、脱力感)が出現します。

これが動揺病であり、一種の「めまい」といえます。一般に乗り物による動揺の周期・振幅・加速度の変化が大きいほど酔い易く、方向では上下方向、前後方向、左右方向の順に起こりやすいようです。他のめまいと異なり、これらの刺激がなくなると、すぐに回復するのが特徴です。

乳幼児は酔いにくく、小学校入学の頃から高学年になるにしたがって酔う人が増え、老人になると再び減少します。男性より女性に多くみられます。アンケート調査によると女性の半数近くが、自分は酔い易い体質と考えています。また自律神経が不安定で日頃からたちくらみがしやすいとか、朝なかなか起きられない人や、神経質、貧血気味、胃腸が弱い人などはおこりやすく、さらに睡眠不足や疲労、冷え込みなど体調を崩しているときにもおこりやすいものです。

酔ってしまったときには、乗り物から降りるのが最も良いのですが、飛行機や船などでは、なかなかそういうわけにもいきません。

 

動揺病の対策

1)乗る場所の選択

乗り物では最もゆれない場所を選びます。乗用車なら助手席、電車なら中央からやや前より、船では下方船室の中央部付近が良い位置です。

2)姿勢と視線

最も酔いやすいのは目を閉じて椅子に座っている状態です。逆に酔いにくいのは、目を開けて、あおむけ、もしくは横向きに寝ている状態です。腹部を圧迫する姿勢も良くありません。飛行機であれば背もたれを倒して足を投げ出した姿勢、バスでは車の中央付近で進行方向に向かって乗るようにします。目を開けているといっても、ゆれる車の中で読書をしたり、近くの早く動くものを見たりするのは良くなく、遠くの風景を見たり、ぼんやりを薄目を開けているぐらいが良い状態です。

3)乗る前の条件作り

長時間乗り物に乗るときは、睡眠不足や過労を避けるなど、体調を整えることが大切です。また、お腹のすき加減も関係します。腹八分目が良く、暴飲、暴食とともに、空腹も避けなければなりません。

4)心理的問題、能動的姿勢

自動車において、自ら運転するときは酔わないのに、乗せてもらうときには酔い易いことは日常しばしば経験します。いわば、任務を持った人は酔いにくいといえます。また、自律神経系には心理的な要因が強く影響します。乗る前から「酔うのではないか」と思う不安感があると、実際に酔い易くなります。同様に周囲の人が「まだ大丈夫?」などと質問することは、かえって乗り物酔いを助長します。体調を整えて、自信を持って臨みましょう。また、雑談をしたり、みんなで楽しく歌を歌ったりして、気をまぎらわすことも重要です。

5)薬物療法

いわゆる酔い止めと呼ばれる薬には、それなりの効果があります。薬の作用と共に、薬を飲んだから酔わないという心理的な効果が期待できます。内服薬では乗り物に乗る30分ほど前には服用しておかなければなりません。

6)訓練

船の客は酔いやすいのに、熟練した船員は酔うことはありません。また、フィギュアスケートの選手が、いくらくるくる回転しても、めまいで倒れることはありません。強い刺激であれば、最初は誰でも酔います。しかし、ずっと同じ刺激にさらされていると、次第に酔わなくなってきます(適応現象)。ですから、最初はバス通学が出来ないような人でも、がんばって乗り続ければ、いずれ慣れてしまって、なんともなくなります。