鼓膜切開は中耳腔に貯った液を排泄する目的で、滲出性中耳炎と急性中耳炎の際に行われる治療法です。正常の人では鼓膜の内側の中耳腔には空気が入っています。(正常の鼓膜は図1の写真のように奥が透けて見えます)
ところが、滲出性中耳炎では中耳腔の空気が吸収され逆に液が貯留してきます。(図2は滲出性中耳炎例で山形に貯留した液面がみえます。)
また、急性中耳炎では風邪などにともなって鼻から耳管という管を通して中耳腔に細菌感染をおこし、膿汁が貯留します。(図3は急性中耳炎例で中耳腔いっぱいに黄色い膿が貯っており、鼓膜が外耳道に向かって膨隆しているのがわかります。)
これらの液は抗生物質の投与や局所的な治療である程度は減少しますが、それだけでは不十分なことも少なくありません。鼓膜切開とは鼓膜の一部に小さな穴を開け、外耳道側から中耳腔に貯った液を抜く方法であり、
・貯留液が多量で発熱や痛み、難聴などの原因となっているとき。
・貯留した膿汁の為に髄膜炎や顔面神経麻痺などの合併症を起こしかけているとき。
・貯留した液がねばいとき。
・薬物などの保存的な治療で貯留液が減少しないとき
などの際に行われます。
鼓膜を切るというと大変なことのように思われますが、中耳炎の治療法としては古くから行われているもっとも確実な方法のひとつです。
治療に当たっては、次の様なことがポイントとなります。
1)切開した穴は通常数日で、遅くとも数週間以内には殆ど閉鎖してしまいます。
2)中耳炎の原因となっている風邪やその他の原因が解消されない限り、切開にて開いた穴が塞がると再び中耳腔に液が貯留し、繰り返し切開が必要となることが少なくありません。
3)昔と違って現在では効果的な麻酔方法が開発されており、十分に麻酔を行えば痛くはありません。但し、切開、貯留液吸引に際しては大きな音がすることと、若干の圧迫感が伴います。
4)切開後、耳漏が何日も持続することがありますが、抗生物質に抵抗する菌の感染でない限り、やがて停止しますので心配ありません。
5)鼓膜切開をすることで難聴となったり、鼓膜に穴が開いたりすることは殆どありません。まれに鼓膜に穴が残ることがありますが、保存的処置や最終的には手術的な治療で閉鎖することが可能です。
6)数回の鼓膜切開を繰り返してもなお液が貯留するようであれば、鼓室チューブ留置手術が望まれます。
何れにしても中耳腔に液を貯留したままで放置しておくと、やがて液は段々粘稠となり、切開しても吸引できなくなると共に、徐々に難聴が進行してきますので、積極的な治療が望まれます。